はじめに[]
- ユウナ
- さて、今回はちょっと複雑な話をしようと思う。
- ソラ
- いつも難しい話ばっかりじゃないですか。
- そんなことニコヤカに言われても……
- ユウナ
- はは、ごめんごめん。
- でも、世界はもっと複雑なんだよね。
- 誰も理解できないくらいに。
- ソラ
- リーダーにも分からないんですか?
- ユウナ
- そりゃそうだよ。
- 僕が分かってるのなんて、ほんの一部だけの情報なんだから。
- それでも、人は世界を見ようとする。
- そして、少しでも多くのものを知ろうと、高く高く上り詰めようとする。
トップに集められるもの[]
- ソラ
- なんで偉くなると多くのことが分かるんです?
- ユウナ
- 簡単に言うなら情報が集まりやすいからさ。
- いや、集められると言ったほうが分かりやすいかな?
- 組織は多くの意思決定を行う必要がある。
- そのために組織のトップにはちょっと想像できないくらいの情報が集められるんだよ。
- ソラ
- リーダーにも集まってるんですか?
- ユウナ
- まあね。
- 僕の判断が間違ってしまったら、いくら大尉やシンががんばっても、全滅は免れない。
- 時々逃げ出したくもなるけれど、そしたらもっと多くの犠牲が出るだろう。
- 組織のトップなんて、みんな多かれ少なかれそういうプレッシャーと戦い続けるものだと思うよ。
- ソラ
- そんな笑顔で言ってますけど、大変なことじゃないですか。
- ユウナ
- リヴァイブはレジスタンスなんだ。
- 仕方ないことだけど、周りには常に死が付きまとう。
- だから、どれだけの情報が集まってきても、いつでも僕は思うよ。
- 「本当にこれでいいのか?」ってね。
- ソラ
- ………
- ユウナ
- リヴァイブのような決して大きくない組織でもそうなんだ。
- それが世界最大の組織である統一地球圏連合のトップともなれば、その心労はいかほどのものだろうね。
- ソラ
- カガリ様のことですか?
- ユウナ
- そうだね。
- 組織のトップには今言ったように、ものすごく多くの情報が集められる。
- 統一地球圏連合ほどの組織になると、はっきり言って一人の人間が処理できる情報をはるかに超えた情報が集められるだろうね。
トップの責任[]
- ソラ
- 超えちゃったらダメじゃないですか。
- ユウナ
- だから、トップに立つ人間は情報の取捨選択をする必要が出てくる。
- 必要な情報は何か?
- 間違った情報を選択していないか?
- 誰を信じ、誰を疑えばいいのか?
- そもそも、自分は情報を元に正しい判断を下しているのか?
- 自分の判断によって人が死に、時には誰かを殺すことで誰かを生かす選択をする。
- 自分の一挙一動が人の命に直結する。
- ソラ
- 責任……ってことですよね……。
- ユウナ
- もしかしたら、それは人が担える類のものではないかもしれないけれどね。
- ソラ
- それでも、カガリ様は統一地球圏連合の代表を辞めたりはしていないんですよね。
- ユウナ
- そうだね。
- 彼女は何故、そんなにしてまで代表を続けるのか。
- きっと色々な側面があると思う。
- 平和な世界を作りたいという思い。
- 彼女の父親が夢見てやまなかったその世界は、「夢」なんて言葉では語れないようなものなのかもしれないね。
- ソラ
- 父親の……思い……
- ユウナ
- 加えて、彼女を取り巻く環境はさらにその「理想」へと彼女を進めさせる。
- もはや、彼女は彼女の意思で彼女の人生を選択することも出来ないだろう。
- それがアスハの名を受け継いだ者の宿命だとしても、それは悲劇以外の何者でもないと僕は思うんだ。
押し付けられた責任[]
- ソラ
- でも……カガリ様は不幸……なんですか?
- 多くの人に期待されて、それに答えて、一生懸命やってるのに……
- ユウナ
- 必ずしも、不幸とはいえないかもしれない。
- 人から期待されて、その期待にこたえるべく必死になること自体は本来幸せなことかもしれない。
- でも、その期待は決して答えることが出来無いものだとしたら……。
- 人が人である以上、絶対に不可能なことだとしたら……
- ソラ
- 不可能……なんですか?
- 統一地球圏連合の元で世界を一つにすることが……?
- ユウナ
- いや………、時間さえあれば統一地球圏連合による世界統一は可能かもしれない。
- でも、それはきっとカガリ=ユラ=アスハその人が望む世界とはかけ離れた世界だと思うよ。
- ソラ
- かけ離れてしまうんですか?
- ユウナ
- ソラ君はカガリ=ユラ=アスハが望んでいる世界がどんな世界だと思っているかな?
- ソラ
- カガリ様の目指す世界……ですよね。
- う~ん……
- 平和な世界……と言うのだとダメなんですよね?
- ユウナ
- ダメってことはないよ。
- 問題は、その平和ってなんなんだろう?ってことかな。
- ソラ
- 戦争が起きない世界じゃないんですか?
- ユウナ
- そうだなぁ。分かりやすくするために、ちょっと極端な話をするよ?
- 世界中が一つの国になって、国と国の戦争は起きなくなったとする。
- そしたら、軍隊はどうなると思う?
- ソラ
- 無くなる……と思います。
- ユウナ
- 残念ながら、そうはならない。
- 警察力だけでは、国の中の不満分子を抑え切れない場合もあるし、何よりも民がそれを手放すことを選択はしないだろう。
- ソラ
- なんでです?
- ユウナ
- 人が世界中の人を家族だと確信出来るほど、世界は狭くないってところだね。
- 汝、隣人を愛せ。
- 何千年も前から人はその答えを持っていたのに、人は隣人を疑い続けている。
- 自分の家族を守るために……ね。
- ソラ
- で、でも……国が一つになれば……
- ユウナ
- 国が一つになっても犯罪者は出るだろう。
- 地域格差がある以上は不満分子も出る。
- 誰が彼らの気持ちを押さえつけることが出来るだろう?
- だから、押さえつけるための力はもち続けなければならない。
- それが……軍だ。
- ソラ
- 力で押さえつけるなんて……
- ユウナ
- それしか方法がないんだよ。
- 全ての人の頭の中を分かる方法がない限り……。
- そして、そのことをカガリ=ユラ=アスハも理解している。
- 理解した上で、彼女は唱え続けているんだ。
- 「世界を平和にしたい」とね。
夢見るための夢[]
- ソラ
- かなわない……夢……
- ユウナ
- その夢が、どれだけ実現不可能であろうとも、彼女は唱え続けなければならない。
- そうしなければ、いたずらにまた戦渦を広げることになる。
- 統一と言う夢を与えなければ、人々は「敵」を作り続けてしまうからね。
- ソラ
- それを防ぐための……夢……ですか……
- ユウナ
- そう。
- 人々の戦いを少しでも減らすために、かなわない夢を担い続けている。
- これをスケープゴートと言わずして何と言うんだろう。
- 人々はそろいもそろって、たった一人の少女にすがっているのさ。
- 怒りを通り越して悲しみすら感じるよ。
- ソラ
- ………
- ユウナ
- ………だから……僕たちは、もうこんなことは終わらせないといけないんだ。
- 誰かに生きる責任を押し付けなければ続けられない世界を。
- ソラ
- でも……そのために戦いが生まれる……
- そんなの……
- ユウナ
- これは、もうただの僕の安っぽい正義感に過ぎないのかもしれない……
- それでも……僕は……
- ソラ
- ……リーダー……
- ユウナ
- ……ダメだな……僕は
- こんなことでは正しい判断なんて出来やしない。
- リーダー失格……だな。
- ソラ
- ……
- ユウナ
- それでも、僕は逃げるわけには行かない。
- 僕の判断にも命が乗っているんだから。
- ちゃんと、しなきゃね。
- ソラ
- はい。(それは本当にそう思う。)
- ユウナ
- でなきゃ……彼女に顔向けも出来ないからね。
- ソラ
- ……(彼女はそんな事望んでないと思うけど。)
- ユウナ
- ん?
- ソラ
- い、いえ。(最近のリーダーは何だか「押し付け」って言葉を口癖の様に使うし、言ってる事もどこか違和感があるな…)
- ユウナ
- うん、ありがとう。
- 今回はここまでだね。
- ソラ
- ……ありがとうございました。